20. 春休みから引きずり出される

 春になってきた。春休み中はずっと布団にもぐってスマホを見るか寝るかだったけれど、それでもスズメの鳴き声がまた聞こえるようになったことだけは分かった。(私の家はちょうど布団の耳元のあたりに塀があって、春になると毎朝その塀でスズメの集会が開かれる)
久しぶりに外を歩くと、空気も景色も、聞こえる音も、春の気配がしていた。風に刺さるような冷たさはなく、明るい日差しがあり、乾いたアスファルトと砂利の音がする。道のわきにはまだたくさん雪が残っているけれど、それもどんどん溶けている最中で、たっぷりの水がたまったり流れたりしている。場所は違うけれど小学生の頃から好きな景色だ。晴れた景色の中にたっぷりした水たまりや絶えない流れがあると、とても良い気分になる。

 春休みが終わって、どうしても大学へ行かなければならなくなったので、ぴかぴかの新入生にびくびくしながら門をくぐった。これまたぴかぴかしている同輩にぎこちなく笑って挨拶を返せば、みんな優しいことに軽くおしゃべりしてくれる。自分が情けなくなりながらも、心がうるおうのを感じた。ほとんど人と顔を合わせずに春休みを終えたので、知らない間にぱさぱさになっていたらしい。人と会うのが多くても疲れて、人と全然会わなくても癒されないのは不思議だ。

 帰りに花屋の前を通ったとき、ちょうど花屋の扉が開いたらしく、すごい濃度の花の香りがわっ!と過ぎていった。